ホーム | 雑記トップ | 須通り 10 周年(2024 年 7 月 26 日公開)
記憶している限りで 2022 年 6 月には須通りの初期版をアップロードしていたはずだから、いつのまにやらウェブサイトが稼働し始めて 10 年以上を経過したことになる。この間サイトの中身も、運営者にも、そして社会情勢においても色々な出来事が起こった。あらためて 10 年間の所感をまとめておきたい。
なお注意点として、以下の文章は推敲コストを掛けずに感じたことを書き連ねているので、段落間や段落内でいきなり脈絡のないトピックに飛んだり、明らかに論理が飛躍したりしている箇所が幾つかある。それでも一旦公開しておいて、自分が気になった部分があれば後日しれっと直すかもしれない。
本当は、2022 年の夏ごろ(本当の10周年)に本ページを公開する予定で執筆の途上にあった。しかし何となくサイト更新に気乗りがしなくて(詳しくは本文内参照)先延ばしにした挙句 2 年が経過してしまい、さすがにまずいと思ったので一旦締めにして公開に踏み切る。筆者はいわゆる Twitter(現 X)やら Instagram やらといった SNS のアカウントを持っておらず、かろうじて第三者が連絡可能な窓口は e-mail と Discord 程度であるため、そろそろ情報を更新しておかないと生存確認上まずいだろう。
総論
サイトを開設してからの 10 年間(正確には 12 年)で、自分のポジションも、社会の状況も、そしてインターネット上の個人サイトという媒体を取り巻く環境も、すっかり様変わりした。普段の筆者の文章だったら、このあと「勿論変わらないものもある」と続くのだが、残念ながら多くの物事が急激に、そして悪い方向に変化した。
そもそもサイトが始動した 2012 年も、東日本大震災の影響が色濃く世情に反映しており、決して明るい時代ではなかった。しかし、あの頃はまだ「戻るべき日常」がビジョンとして存在しており、そこに向かって復興を進めようという意志が市民からも行政からも感じられたものである。とはいえ国力の低下、特に人口減少による将来的な社会基盤の崩壊を危惧する声は、それなりに存在していた。筆者自身、次に東日本大震災級の大きな災害(おそらくは東南海トラフ地震)が発生すれば、元通りの復旧は不可能であり一定範囲の地域を放棄することになるだろうと予想していた。2024年現在、能登半島地震における行政の塩対応を目の当たりにして、この予想は確信に変わっている。
生活について
一方で個人的な履歴に目を向けると、ここまで何とか飯の種に困らずに研究業界で生きて来れたので、キャリア的には順調な方なのだろう。しかし、ちょうど現在の職場でパーマネントの研究職に就くことが決まったタイミングで Covid-19 が流行し始め、国内、海外含めていくつかの研究計画や集会の企画が流れた。後で挽回したものもあるが、時機を逸して企画そのものが時代遅れになったり、自分自身が関心を失ってしまって放置しているものも多い。
まあコロナ禍よりも前からの経緯もあった。サイトのトップページにも書いてあるように 2014 年に博士学位を取って、ポスドクでつくばに移った。さらに 2017 年から金谷に住むようになった。2 度の転居を経て、徒歩圏内に飯屋も無く、生活圏内に図書館も無く、自宅にネットの固定回線も引けない環境が当たり前になってしまった。今でこそガラケーからスマホに切り替えて 5G 契約が使えるようになったが、128 ないし 200 kbps のモバイル回線で情報収集を賄う生活を、6 年間近く続けざるを得なかったのである。
人間、生きていく上で置かれた環境に適応せねばならない。刺激のない生活環境に適応するとどうなるか。何事にも無関心になるのだ。いつの間にやら読書の習慣だとか、旬のアニメを追いかける習慣だとか、休日にショッピングモールをぶらぶらする習慣だとかいった、社会の足どりについて行こうとする試みを一切放棄するようになった。引きこもり癖はコロナで更に加速し、2020年から2022年までの丸2年間、自宅から半径 20 km の円内を一歩も出ない生活が続いた。
引きこもり癖が悪化したのは何も筆者だけではない。以前もそうであったが日本人はさらに内向きになり、世界の情報が入ってこなくなった。コロナの影響で数年間鎖国状態にあった間に、海外の物価が上がって円安も進んだため、渡航が難しくなったことがこれに拍車をかけた。
とはいえ人々は、以前よりも低水準かつ高リスクの生活を受け入れることで、日常を取り戻している。もちろん2024年現在も、自然現象としてのコロナ禍は終息したわけではない。だが5類引き下げに伴い、国家方針としてこれ以上、対処にコストを割かないことになった。ともあれ我々は、2019年以前よりもカジュアルに隣人が肺炎に罹り、死んでいく社会を受け入れたのである。さらに日本人はこれから数十年掛けて、道路や水道が壊れたまま放置されたり、夜間に出歩くと追い剥ぎにあったり、市役所の窓口で賄賂を払って書類を受理してもらったりする生活に慣れていくだろう。衰退する社会ではそれが日常となり、日常のもとでは異常を正常と感じるようになるからである。
データ処理関連のコンテンツについて
元々サイトのコンテンツとしては自分自身の研究紹介に加え、tips を積極的に載せていくという方針で整備してきた。特に力を入れていたのが R 言語の機能紹介であり、Tidyverse の特集は元々個人的なメモとして書いていたのだが、サイトのメインを張るコンテンツに成長した。詳細は控えるがレンタルサーバーのアクセスログ解析を見る限り、ページリクエストの半数以上は stat/ セクションのファイルである。
ただ問題は、現在コンスタントに閲覧されているページが概ね2018年以前に更新された、比較的古いコンテンツである点だ。想像するに、これには2つの原因がある。
- 最近のデータ処理やプログラミングに関する記事が高度になりすぎて、ボリュームゾーンを外れている
- 読者を呼び込むためのフローがぶっ壊れており、新しい情報が周知されていない
前者はまあ仕方なくて、自分から意思を曲げてボリュームゾーンに寄せる気はない。そもそも新しい記事を起こす動機が個人的なメモであり、自分が現にデータ解析で用いるテクニックを、ある程度文脈非依存になるよう手順を整理してまとめたものが、これまでの一連のコンテンツに他ならないからである。
また個人的にも、研究の主戦場が統計モデルから深層ニューラルネットワークに移ったため、R よりも Python のコードを弄る時間が多くなった。正確に言うと、インハウスの解析屋として受ける仕事は現在も多くが R であり、Tidyverse で解析パイプラインを書いたり、まとまった内容があればパッケージ化したりといった作業は日常的に行っている。ただしテクニック的には、サイトで記事化済みの範囲内で書けるコードであり、備忘録を加筆する必要を感じない。逆に Python の細かい Tips は自分で書かずともネットに幾らでも存在するし、最近は ChatGPT に投げた方がよほど早い。
後者について、こうした個人サイトを通じての研究ノウハウの提供は、コロナ前までは順調に機能していたと思う。 潮目が変わったのは 2020 年から 2021 年に掛けての時期で、サイトを更新しても新しいページがまともに検索エンジンに拾われず、昔から公開しているページだけにトラフィックが集中するようになった。
サイト更新の手応えを感じなくなったというのは、 時系列でいうなら最初に SEO 対策が先鋭化して個人サイトが上位に位置しづらくなった。 また、検索ワードと無関係の語彙を羅列したゴミサイトが目立つようになった。 このあたりで、世間的にも Google 検索はもはや終わりという認識が広まったように思う。 その後さらに SNS の運営者(主にえろんむすく)が、個々のユーザーが外部サイトへのリンクを貼ることを阻害するようになり、SNS が急速に閉じコン化した。 ハイパーリンクで幾多のサイトが緩く繋がり、検索エンジンを用いれば発信者のネームバリューとは無関係に、調べたいトピックの在処を見つけてアクセスできたインターネットの世界は、もはや甘美な思い出の中にしか存在しないのかもしれない。
その他のサイト内コンテンツについて
その他、大きく状況が変化した記事といえばカメラ関連の以下 2 つであろう。
実は2020年編や2024年編も執筆は完了し手元にあるのだが、正直に言って公開する意義を感じていない。理由は単純で、一般人特にユース層が気軽に(一桁万円で)買えるカメラの進歩が2016年以降はストップしており、そんな中で細かい話を書くと特定メーカー・製品への中傷でしかなくなってしまうためだ。
特に、若手の野外研究者や自然愛好家にお薦めする製品という意味では、30万円くらい無理矢理に貯めてマイクロフォーサーズのフラッグシップ機種を買うか、動体撮影は完全に諦めて適当な防水カメラを買うかしか選択肢がない。10年掛けてコンパクトデジタルカメラの市場は限りなく縮小し、もはやフィールドワークでの要求を満たすことが難しくなった。
カメラ全般の需要に目を広げても、一般市民による自らの人生の記録という用途は、今やスマートフォンのカメラ機能に完全に代替されたといえる。かくいう筆者もガラケーから iPhone14 Pro に乗り換えたタイミングで、コンデジ(Canon PowerShot G7 X Mark II)を持ち歩くことを止めた。24 mm 画角の画質においても、動画機能においても完全にスマホの方が上位互換となり、もはやカメラ専用機を日常的に携帯するメリットは薄い。
ただし望遠側の画質については、光学ズームが付いている PowerShot の方が現在でも上回っている。良好な光学ズームを組み込むにはカメラ本体の厚みがどうしても必要であり、スマホ市場では厚みがおそらく許容されないためである。ここ数年の高級コンデジや小型ミラーレス機の供給不足も相まって、標準から中望遠にかけてのレンジについては、スマホ普及前の高級コンデジで実現できていたユーザー体験から、むしろ後退してしまったのが今の状況だ。数世代経ってメタマテリアル等の技術が本格的に台頭しない限り、この窮状が当面は続くのではないだろうか。
サイトの将来展望は?
あれこれ悲観的なことを書いてきたが、「htmlベタうちで作られた個人公式ウェブサイト」という現在の須通りの形態は、依然として最良であると信じている。上述の通り SNS はバズによる知名度の爆発的向上が狙える一方で、プラットフォーマーによる恣意的な運営によるBANや検閲のリスクを逃れ得ない。研究者が活動の軸足を置くには危険すぎる。なのでこのサイトについては、WWW や HTML の規格が根本的に変わるような一大事が起こらない限り、何も変えずに運営していく予定である。
もちろん、主軸を現在の sudori.info の静的サイトに据えた上で、自ら SNS アカウントを解説して情宣活動を行うのはありだろう。実名匿名を問わず、これから数年間で幾つかの興味深い活動が始まるので、今後の展開にご期待いただきたい。