須通り
Sudo Masaaki official site
For the reinstatement of
population ecology.

須藤正彬
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター
環境情報基盤研究領域 統計モデル解析ユニット 特別研究員

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博士学位論文

Title: "Ecological significance of the environmental heterogeneity between the upper and lower surfaces of a single leaf as a determinant of acarine predator–prey relationship"

(葉の上下面における環境異質性がダニの捕食-被食関係に及ぼす影響)

京都大学リポジトリでアブストラクトおよび学位に関する事実を公表しています。全文は2015年3月以降にリポジトリで公開されます。

要旨

植物葉は表裏(上下)の2面を有し、一般に葉裏は葉表よりも、毛やドマティア等の微細立体構造に富む。植物ダニ、とりわけ捕食者であるカブリダニはこれらの構造をより大型の(ギルド内)捕食者からの隠れ処とし、またカブリダニの代替餌資源である菌食性ダニや花粉は、毛の存在によって増加する。植物種間での比較研究により、毛やドマティアがカブリダニの個体群密度を増加させることが知られている。一方、主として農生態系での限られた観察結果から、カブリダニや植食者であるハダニ等のダニは、総じて葉の下面に集中分布すると信じられてきた。そのためか、葉における表裏(上下)という異質なハビタットの存在が植物ダニ群集、とりわけ捕食-被食関係に及ぼす影響は注目されてこなかった。

ダニは葉の上面に留まった場合、風雨および太陽光の中波長紫外線(UVB)による悪影響を受けやすくなる。これらの環境ストレスは、カブリダニおよびハダニが葉の下面に集中する要因であると考えられてきた。しかし、葉の上面を利用することの得失は、両者の間で異なるかもしれない。捕食者であるカブリダニにおいては餌資源の分布、ギルド内捕食者および環境ストレスからの回避の全てにおいて、上面利用はデメリットのみを有するだろう。このときハダニ等の植食者は、もしも葉表の餌の質が葉裏に対して劣っておらず、UVB等の環境ストレスにある程度の耐性を有していたならば、カブリダニの少ない上面に留まることで潜在的に捕食回避上の利益を享受し得る。本論文はこの上面利用の得失における潜在的なギルド間差異に着目し、葉の上下面における環境異質性がカブリダニの捕食圧を通じて、植食性ダニの個体群維持に貢献する可能性を検証した。

材料として、落葉低木であるコバノガマズミが用いられた。著者らが2007–2008年に京都近郊の2カ所の森林で行った調査により、コバノガマズミ葉は表裏両面に星状毛を、裏面にドマティア(脈腋毛束)を有し、季節を通じてカブリダニおよび菌食性ダニの個体群が高密度に維持されることが判明している(Sudo et al. 2010)。はじめに、温帯林の構成樹種におけるダニの葉内分布(2章)が調査された。Sudo et al.(2010)のサンプルの再解析に基づき、寄主植物(コバノガマズミおよび近傍から採集された他14樹種)の葉面形態(毛およびドマティアの有無)、季節、およびダニの分類群(科、上科ないし亜目レベル)について、ダニの表裏利用パターンが比較された。菌食性の分類群(キノウエコナダニ科およびコハリダニ上科)およびカブリダニ科では、寄主葉の形態および季節にかかわらず、98%を超える個体が下面に留まった。一方、植食者であるチャノヒメハダニ(ヒメハダニ科)は、コバノガマズミに秋季のみ出現し、成虫の13%、卵の35%が葉の上面から採集された。また2009年10月に野外のコバノガマズミでの追加調査を実施し、昼夜におけるダニの葉面分布を比較した。カブリダニについて昼夜間共に、上面をほとんど利用しないことが確認された。

3章および4章では、ジェネラリスト捕食者であるケブトカブリダニと、葉の上下両面を産卵場所として利用する植食者であるチャノヒメハダニとの捕食-被食関係に、コバノガマズミの表裏葉面における毛の形状差(3章)、および葉面の上下に伴う重力方向の違い(4章)が及ぼす影響を実験的に評価した。コバノガマズミ葉面の星状毛は葉表よりも葉裏において分枝が発達しており、チャノヒメハダニ卵はいずれの葉面でも星状毛の下に産み付けられていた。リーフディスク(単一葉面)にヒメハダニ雌成虫を導入し、ケブトカブリダニとの同居下で産卵させると、ヒメハダニ卵は葉表(42%)よりも葉裏(63%)で高い孵化率を示した。しかし、ダニが上下葉面を自由に移動できる装置を用いて同様の実験を行ったところ、卵は下面(44%)よりも上面(54%)において高い孵化率を示した。このときヒメハダニ成虫の64%が上面に、カブリダニ成虫の83%が下面に集中分布し、葉の上面における低い捕食者密度が、毛の保護効果の弱さにもかかわらず、葉表での卵の被食リスクを葉裏よりも低水準に抑えることが示された。また捕食者の存在による間接効果としての産卵数低下も、被食者と捕食者の分布が葉の上下面に分かれることによって緩和された。

5章では、季節を通じた太陽光(UVBおよび放射熱)の変動が、コバノガマズミ葉の上面におけるチャノヒメハダニ卵の生存可能性に与える影響を、室内・屋外操作実験およびモデルを用いて検証した。UVを透過ないしカットするフィルムの下で、屋外の温度・光条件に卵を曝露し、2012年5月から10月までの各月における卵の運命を比較した。UVカット処理が孵化率を有意に向上させた一方、カット区でも7, 8月には卵のほぼ全数が死亡し、太陽光UVと夏期の高温の双方が殺卵効果を示した。この結果および温度–卵発育速度の関係に基づき、京都における年間の気温・紫外線強度の変動から、卵の孵化率を予測する決定論的モデルを構築したところ、5月下旬(推定孵化率: 38%)と10月上旬(同59%)に2つのピークを示した。後者が野外での出現季節に一致したため、本種における産卵場所としての寄主葉上面の利用可能性は、太陽光紫外線と高温の双方により制限されていると考えられた。

6章(総合考察)では以上の結果から、チャノヒメハダニの捕食回避および個体群消長に、葉の上面と下面の環境異質性が有する役割を検討した。捕食者であるケブトカブリダニは葉裏への選好性を示し(4章)、野外での分布も寄主葉の形態や季節を問わず下面へ集中(2章)するため、寄主葉上面への産卵は季節を通じて有効な捕食回避手段である。しかし上面への産卵は、太陽光UVBおよび放射熱による、卵の生存率低下を招く。葉の下面のみに産卵する植食性ダニ(ナミハダニ)に比べて、チャノヒメハダニの卵は高い紫外線耐性および高温耐性を有する(5章)ものの、これらの環境ストレスは産卵場所としての葉表の利用可能性を季節的に制限する。従って下面での捕食圧と、上面での環境ストレスとのバランスが、コバノガマズミ葉全体でのチャノヒメハダニ個体群の消長を決定するものと結論される。

各章に対応するジャーナル掲載論文

(2章)
*Masaaki Sudo, Masahiro Osakabe (2011) Do plant mites commonly prefer the underside of leaves? Experimental and Applied Acarology 55 (1): 25–38. doi: 10.1007/s10493-011-9454-4 | 京都大学リポジトリでも本文公開中 | 解説ページへ

(3章)
*Masaaki Sudo, Masahiro Osakabe (2013) Stellate hairs on leaves of a deciduous shrub Viburnum erosum var. punctatum (Adoxaceae) effectively protect Brevipalpus obovatus (Acari: Tenuipalpidae) eggs from the predator Phytoseius nipponicus (Acari: Phytoseiidae). Experimental and Applied Acarology 60: 299–311. doi: 10.1007/s10493-012-9648-4 | 京都大学リポジトリでも本文公開中 | 解説ページへ

(4章)
*Masaaki Sudo, Masahiro Osakabe (2013) Geotaxis and leaf-surface preferences mitigate negative effects of a predatory mite on an herbivorous mite. Experimental and Applied Acarology 59 (4): 409–420. doi: 10.1007/s10493-012-9622-1 | 京都大学リポジトリでも本文公開中 | 解説ページへ

(5章)
*Masaaki Sudo, Masahiro Osakabe (2015) Joint effect of solar UVB and heat stress on the seasonal change of egg hatching success in the herbivorous false spider mite (Acari: Tenuipalpidae). Environmental Entomology 44 (6): 1605–1613. doi: 10.1093/ee/nvv131 | 解説ページへ