須通り
Sudo Masaaki official site
For the reinstatement of
population ecology.

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          ,, _
       /     ` 、
      /  (_ノL_)  ヽ
      /   ´・  ・`  l   個体群生態学は復活するんだ。
     (l     し    l)  悲しみの弔鐘はもう鳴り止んだ。
      l    __   l   君は輝ける人生の、その一歩を、
      > 、 _      ィ    再び踏み出す時が来たんだ。
     /      ̄   ヽ
     / |         iヽ
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上から執筆年順、第一著者でないもの含む。背景説明が必要なものだけを抽出しているので、完全なリストはこちらの業績一覧を見よ。

温帯林におけるダニ相の季節変化

*Masaaki Sudo, Sachiko Nishida, Takao Itioka (2010) Seasonal fluctuations in foliar mite populations on Viburnum erosum Thunb. var. punctatum Franch. et Sav. (Adoxaceae) and sympatric shrubs in temperate secondary forests in western Japan. Applied Entomology and Zoology 45 (3): 405–415. doi: 10.1303/aez.2010.405

3行でまとめると

毛やドマティアを持つ植物の葉面では
そうでない葉よりも
季節を通じて
捕食性・菌食性のダニが多い

コメント

いわゆるひとつの処女論文。自分が書いたものが印刷物になって手元に送られてきたときの感動は何度繰り返しても色褪せない。最早これは呪縛であり、Publish and perishとはよく言ったものだ。
葉面の微細立体構造(毛・ドマティア)が植物ダニを捕食者等から保護することは知られてきたが、それらの構造が、葉上ダニ群集の動態に及ぼす影響は評価されていなかった。本研究では、京都近郊の雑木林で2007―2008の2年間、低木層の葉上からダニを採集した。
その結果、毛やドマティアを有する植物において、その内部を利用するダニ個体群(捕食者であるカブリダニ、菌食者であるキノウエコナダニ・コハリダニ)が季節を通じて高頻度で存続することが見出され、葉面微細構造がダニ群集の安定性に寄与している可能性が示された。

植物ダニの葉面分布

*Masaaki Sudo, Masahiro Osakabe (2011) Do plant mites commonly prefer the underside of leaves? Experimental and Applied Acarology 55 (1): 25–38. doi: 10.1007/s10493-011-9454-4 | 京都大学リポジトリでも本文公開中

3行でまとめると

ダニは
葉の下面に
いることが
多い

コメント

上記と同一のデータセットを使用。植物ダニが葉のオモテ(上面)よりもウラ(下面)から高頻度で見つかることはダニ学者の間では常識とされてきたが、それを初めて群集レベルで、自然生態系で定量化した研究である。
なぜダニが葉裏を好むのかは、今でも完全には解明されていないものの、要因の一つとして挙げられたのが太陽光紫外線の有害作用(Ohtsuka and Osakabe 2009 Environ. Entomol.)である。ここから、以下に示す一連の研究へと繋がってゆく。

ナミハダニ卵に対する太陽光紫外線の効果の季節変化

Yuta Sakai, Masaaki Sudo, *Masahiro Osakabe (2012) Seasonal changes in the deleterious effects of solar ultraviolet-B radiation on eggs of the twospotted spider mite, Tetranychus urticae (Acari: Tetranychidae). Applied Entomology and Zoology 47 (1): 67–73. doi: 10.1007/s13355-011-0090-6

3行でまとめると

夏よりも春のほうが太陽光紫外線は低強度だが
それ以上に気温が低いので
ナミハダニの卵は発育に長時間を要し
より多くの積算照射量を受けて死ぬ

コメント

実験は研究室の後輩である酒居勇太氏が実施し、須藤は統計解析を分担。
まあ「ダニの卵は太陽光に含まれる紫外線であっさり死ぬ」という事実を知らない人が、この論文だけを読んでも意味不明だろう。そのあたりの経緯については、Ohtsuka and Osakabe (2009) Environ. Entomol. および Sakai and Osakabe (2010) Photochem. Photobiol. あたりの先行研究を参照されたし。

葉面の表裏における栄養条件の差がナミハダニの産卵数に与える影響は重力により補償される

Yuta Sakai, *Masaaki Sudo, Masahiro Osakabe (2012) A comparison of the effects of gravity and the nutritional advantage of leaf surfaces on fecundity in the two-spotted spider mite (Acari: Tetranychidae). Journal of the Acarological Society of Japan 21 (1): 1–6. doi: 10.2300/acari.21.1

3行でまとめると

ナミハダニは葉の上面にいるときより
下面からぶら下がっているときのほうが産卵速度は速いけど
葉表のほうが葉裏より餌としての質は高いので
トータルの産卵速度は葉面の上下で変わらないのであった

コメント

実験の主要部分は酒居氏が実施。須藤はcorresponding authorとして追加実験、解析および執筆投稿を担当。
ナミハダニは寄主葉の専ら下面を食害する性質を持つ(畑や果樹園では約98%の個体が葉裏から見つかる)。その理由として上の項目で挙げた太陽光紫外線からの回避が第一に挙げられるのだが、そもそも葉の上と下ではダニの体に掛かる重力の方向が異なるし、表と裏では栄養条件が違うかもしれない。後者2つの影響について、インゲンマメの葉を用いて検討したのがこの研究である。
結論として重力および栄養条件が、上下葉面間で産卵数を著しく変えるということはなく、ナミハダニの分布が葉の下面に偏っていることを、これらの要因では説明できなかった。つまり、考慮すべきはやはり太陽光というわけだ。

植物ダニの種間における葉面選好性の違いが捕食者による植食者への負の影響を緩和する

*Masaaki Sudo, Masahiro Osakabe (2013) Geotaxis and leaf-surface preferences mitigate negative effects of a predatory mite on an herbivorous mite. Experimental and Applied Acarology 59 (4): 409–420. doi: 10.1007/s10493-012-9622-1 | 京都大学リポジトリでも本文公開中

3行でまとめると

チャノヒメハダニは葉の上面(オモテ)を好み
その捕食者であるカブリダニは下面(ウラ)を好むので
両者の分布は葉面によって隔てられ
ヒメハダニの卵は上面では食べられにくくなる

コメント

植物の葉に表裏二つの面があること自体が、植食者種と捕食者種の葉面選好パターンの違いを介して両者を空間的に隔離し、捕食圧および捕食者との同居による植食者の産卵数減少を緩和しているという、革新的な知見(だったらいいな)をはじめて報告した。

葉面の毛がヒメハダニの卵を捕食者から保護する

*Masaaki Sudo, Masahiro Osakabe (2013) Stellate hairs on leaves of a deciduous shrub Viburnum erosum var. punctatum (Adoxaceae) effectively protect Brevipalpus obovatus (Acari: Tenuipalpidae) eggs from the predator Phytoseius nipponicus (Acari: Phytoseiidae). Experimental and Applied Acarology 60: 299–311. doi: 10.1007/s10493-012-9648-4 | 京都大学リポジトリでも本文公開中

3行でまとめると

捕食者が入れないほど密生した
毛の下に卵を産み付ければ
卵の成長がゆっくりでも
安心だね

コメント

云いたいことは既に3行でまとめてしまったので、愚痴を少々。この論文の肝は、捕食者がどんなに時間を掛けてもアクセスできない場所(毛の下)に卵を設置することが、卵を「早く成長しなければ被食リスクが増大する」という選択圧から解放し、結果として***********************という点にある。これが査読者に理解されず、アクセプト稿では単純に毛の隠蔽効果を実証した論文という体裁を取らざるを得なかったのは残念だ。*の中にどんな言葉が入るか知りたい方は、直接連絡されたし。

太陽光紫外線と高温ストレスの複合的効果がヒメハダニ卵のふ化成否を季節的に変化させる

*Masaaki Sudo, Masahiro Osakabe (2015) Joint effect of solar UVB and heat stress on the seasonal change of egg hatching success in the herbivorous false spider mite (Acari: Tenuipalpidae). Environmental Entomology 44 (6): 1605–1613. doi: 10.1093/ee/nvv131

3行でまとめると

紫外線の瞬間強度は晩春から初夏に最大となるが
熱ストレスは盛夏に掛かるので
ヒメハダニ卵の死亡リスクは
春よりも秋に最小化される

コメント

この論文の肝は、太陽エネルギーが陸上の動物個体群に与える効果について、わざわざ熱(温度)と紫外線の影響を分けて考える意義を実証した点にある。従来の「温度が高いほど発育速度が上がる」という理解は、春と夏の個体群増殖速度が違うことの説明には有効だが、気温が同程度である春と秋の死亡リスクの差異を説明することは難しかった。紫外線強度は春期も意外と馬鹿にならないが、夏以降は急速に減衰する。秋には熱ストレスと紫外線負荷の両方から解放され、外温動物にとってのベストコンディションとなるわけだ。屋外実験は2012年の春から秋まで。査読に2年掛かってしまったが、ついにリリース。

様々な生活史を持つ害虫に対する最適な抵抗性管理戦略の模索:選抜のタイミングとパッチ間移動の検討

*Masaaki Sudo, Daisuke Takahashi, David A. Andow, Yoshito Suzuki, Takehiko Yamanaka (2018) Optimal management strategy of insecticide resistance under various insect life histories: heterogeneous timing of selection and inter-patch dispersal. Evolutionary Applications 11 (2): 271–283. doi:10.1111/eva.12550 Open Access | (PDF version) | 農研機構プレスリリース

3行でまとめると

有性生殖する害虫の殺虫剤抵抗性管理において
複数の剤を混ぜて撒くべきか
ローテーションで撒くべきかは
パッチ間移動を経た個体の交尾参加で決まる

コメント

内容についてはプレスリリースが出ているので、本項では裏事情のみ述べる。2014年3月に博士学位を取って、6月につくばの農環研へ、委託プロ予算の雇用ポスドクとして移った。最重要タスクに位置付けられたのが本シミュレーションモデルの開発である。仕事に取り組んでから半年以内には主要な結果が出揃っていたのだが、モデルの一般性を担保しつつ論文1本分のボリュームに収める作業が難航し、投稿したのが実に2017年2月である。ほぼ3年かかったことになる。

大規模データセットを用いた殺虫剤の害虫密度低減効果の推定

*Masaaki Sudo, Takehiko Yamanaka, Shun’ichi Miyai (2019) Quantifying pesticide efficacy from multiple field trials. Population Ecology 61 (4): 450–456. doi:10.1002/1438-390X.12019 (Open Access) | (PDF version)

3行でまとめると

日本国内で行われた殺虫剤の屋外試験データを1年分集めて
施用前後での害虫個体群の変化を定量評価してみると
密度を1/10くらいに減らせることが分かったが
複数の有効成分を含む剤でも討ち漏らしはゼロにはならないようだ

コメント

上の Evol Appl の論文で、討ち漏らしがそれなりにあるとき2剤混合の施用形態が、殺虫剤抵抗性の遅延に有効かもしれないという解析を示したが、実際の農業現場で使われている殺虫剤の討ち漏らし率が、「それなり」の水準に達しているか?を検証するデータが不足していた。今回の解析で、非浸透性殺虫剤の施用後に1割程度の個体が残ることが示唆され、撃ち漏らしが「十分」であろうとの結論に至った。

なお最初のバージョンでは JAGS を使用してマルコフ連鎖モンテカルロ法によるパラメータ推定を行っていたのだが、査読中の紆余曲折を経て GLMM 一発になった。勿体無いので JAGS の使用法は別記事にまとめてみたゾ。

個体あたりDNA収量の誤差を考慮したアリル頻度推定:複数個体混合サンプルのサンガーシーケンス

Masaaki Sudo, *Kohji Yamamura, Shoji Sonoda, Takehiko Yamanaka (2021) Estimating the proportion of resistance alleles from bulk Sanger sequencing, circumventing the variability of individual DNA. Journal of Pesticide Science 46(2): 1–8. doi:10.1584/jpestics.D20-064 (Open Access: CC BY-NC-ND 4.0 License) | (関連リソース:外部サイトへ移動)

3行でまとめると

複数個体混ぜてDNA抽出すると効率的に
害虫集団中の抵抗性アリル頻度を区間推定できるが
個体あたりDNA収量が右裾引き型の分布を示すので
誤差構造をガンマ分布で近似すると簡便である

コメント

抵抗性プロ等で作られた殺虫剤抵抗性の遺伝子診断技術は、基本的には各個体独立に遺伝子型を決定している。地域個体群から n 個体をランダムサンプリングして得た 2n 本の染色体中、m 本が抵抗性アリルのとき、m ~ Binomial(2n, p) に従う p の逆推定から抵抗性遺伝子の集団中頻度を求めている。この方式の問題は、抵抗性遺伝子が稀であるとき、精度の担保に必要な n が極めて大きくなること。そこで、フェロモントラップ等で大量の個体を誘殺して死骸から DNA を抽出する手法、および複数個体をまとめて DNA 抽出&遺伝子診断することで検査労力を削減する手法が開発された。

混合サンプルを用いたアリル頻度の区間推定では、昆虫の生体およびトラップ上の死骸について、1 個体から抽出される DNA の収量が従う確率分布をモデル化することが最初のハードルであった。実際のところ、DNAの死後分解を厳密に定式化すると逆数分布になる。これを近似する分布は幾つか考えられるが、ガンマ分布は和の再生性を満たす上、商のベータ分布表現を持つため最も実用性が高い。今後は環境 DNA(水中への拡散過程も、簡略化してゆくと同様の指数的減衰になる)なども含めて様々な定量評価の局面で、本論文の定式化が用いられることだろう。

この論文はいわば「前編」で、上記 DNA 収量のガンマ分布近似に続いて、複数個体混合サンプルをサンガーシーケンサーに流した計測値でアリル頻度を推定するモデルを提唱した。R で最尤推定する関数が、コレスポンディングオーサーの山村さんのウェブサイトで公開されている。「後編」にあたるのが BioRxiv にあるプレプリントで、複数個体混合サンプルをリアルタイム PCR で検査した場合のアリル頻度推定手法を提唱している。こちらは R パッケージとして利用できる。

フェロモンルアーによるチャノコカクモンハマキ誘引能力の経時変化:一般化加法混合モデルに基づく定量

*Masaaki Sudo, Yasushi Sato, Hiroshi Yorozuya (2021) Time-course in attractiveness of pheromone lure on the smaller tea tortrix moth: a generalized additive mixed model approach. Ecological Research 36(4): 603–616. doi:10.1111/1440-1703.12220 (published online 30 Mar. 2021) | Preprint is available at BioRxiv (v2: January 18, 2021) (v1: November 08, 2020). Preprint doi:10.1101/2020.11.06.370809 | チャノコカクモンハマキ捕獲数の生データ(Figshare)

3行でまとめると

フェロモンルアーによるチャノコカクモンハマキ雄成虫の捕獲数は
ルアー開封後の日数に応じて指数的に減少する捕獲能力と
日ごとに非線形に変化する飛翔個体密度の項の和で表され
開封タイミングを変えたルアーの組データで両効果を分離できる

コメント

論文の内容はまとめの通り。今回初めてプレプリント・サーバーを使ってみた。元は2017--2018年の調査データだが、2020年7月から本体執筆を始めて11月上旬にプレプリント登録&ER誌へ投稿、11月中旬に個体群生態学会でポスター発表、12月に査読結果 1 回目、2月にアクセプト。生データも figshare で公開しているので、非線形回帰分析のチュートリアル的な場面でガンガン使ってもらえるとありがたい。

かれこれ10年以上生態学会に所属しているが、Ecological Research 掲載は初である。前々回で Population Ecology にも通したので、後は PSB に載ればグランドスラムだが、植物系のネタがないのだなあ。

freqpcr: ΔΔCq 法に準拠した定量 PCR 分析に基づき個体群アリル頻度を区間推定する R パッケージ

*Masaaki Sudo, Masahiro Osakabe (2021) freqpcr: Estimation of population allele frequency using qPCR ΔΔCq measures from bulk samples. Molecular Ecology Resources 22 (4): 1380–1393. doi:10.1111/1755-0998.13554 (published online 09 Dec. 2021) (Open Access: CC BY 4.0 License) | Preprint is available at BioRxiv (v2: February 16, 2021) (v1: January 20, 2021). | CRAN パッケージ | ソースコード(GitHub) | 大規模シミュレーションの出力データ(Figshare)

3行でまとめると

複数個体から一括抽出された DNA 溶液(バルクサンプル)の対立遺伝子頻度は
生物個体を構成する細胞数の個体差や死後の分解により集団中の頻度から大きくずれるが
個体あたり DNA 収量をガンマ分布で近似することで
集団における特定遺伝子の頻度を区間推定できる

コメント

ある集団から複数の生物個体をサンプリングして特定のアリルの存在頻度を知りたい場合、個体別 PCR で遺伝子診断して、二項分布で頻度の信頼区間を求める方法が従来用いられてきた。検査回数を減らすためにバルクサンプル=複数個体まとめて DNA 抽出し、定量 PCR で溶液中のアリルごとの DNA 相対量を測るアプローチが模索されてきたが、上記の通り DNA 収量は個体差があり、計測値と元の集団のアリル頻度の間に大きな誤差が生まれる。この個体差をガンマ分布という確率分布で近似することで、検査回数を削減しながらアリル頻度の信頼区間を一定幅以下に保つ統計モデルを提案し、R パッケージ freqpcr として提供。日本語でも使い方を解説