ホーム | 雑記トップ | Bluesky 開設(2024 年 12 月 27 日公開)
今年の 7 月に更新したページ「須通り 10 周年」で、以下のように記述した。
サイトの将来展望は?
あれこれ悲観的なことを書いてきたが、「htmlベタうちで作られた個人公式ウェブサイト」という現在の須通りの形態は、依然として最良であると信じている。上述の通り SNS はバズによる知名度の爆発的向上が狙える一方で、プラットフォーマーによる恣意的な運営による ban や検閲のリスクを逃れ得ない。研究者が活動の軸足を置くには危険すぎる。なのでこのサイトについては、WWW や HTML の規格が根本的に変わるような一大事が起こらない限り、何も変えずに運営していく予定である。
もちろん、主軸を現在の sudori.info の静的サイトに据えた上で、自ら SNS アカウントを開設して情宣活動を行うのはありだろう。実名匿名を問わず、これから数年間で幾つかの興味深い活動が始まるので、今後の展開にご期待いただきたい。
つまり SNS のアカウント開設に含みをもたせた書き方である。そして舌の根も乾かぬ 2024 年 12 月 6 日、Bluesky のアカウントがしれっと始動した。山が動いたのだ。
なぜ SNS チャンネルを開設したのか?
さてあの SNS 嫌いで知られるスドウくんが、どのような心境の変化に至ったのか。大体の動機は「須通り 10 周年」に書いているのだけれども、要するに World Wide Web が当初の理念から変質しつつある状況への、自分なりの対処である。
まず、SNS へのコミュニケーションの集約と、サービス間の分断化が極限に達した世界において、個人のウェブサイトによる情宣活動の効果が下がったことが挙げられる。インターネット上の言論空間の主戦場は、html ベタうちで作られた個人サイトから掲示板、ブログ、SNS といった媒体に順次移り変わってきた。とりわけ Twitter(現:X)等の一部の SNS サービスでは、外部リンクの実質的な規制が行われ、各プラットフォーム内だけで情報が交換されるようになりつつある。
さらには行き着くところまで行った SEO 対策や劣悪キュレーションサイトの氾濫、生成 AI の発達による自動作成記事の登場によって、検索エンジンが個人サイトへのリーチ手段として、もはや機能しなくなった。「須通り 10 周年」で「潮目が変わったのは 2020 年から 2021 年に掛けての時期で、サイトを更新しても新しいページがまともに検索エンジンに拾われず、昔から公開しているページだけにトラフィックが集中するようになった」と書いたとおり、アクセス解析でも検索サイトからの新規流入が鈍っているし、各種媒体上でウェブページの URL やタイトルをエゴサしても、2020 年以降に新規作成した記事への言及がほとんど引っかからない。
また「須通り」以外でも自身に関わる体験として堪えたのが、2021 年 7 月 13 日に農研機構の YouTube 公式チャンネルから公開された動画シリーズ「抵抗性管理の考え方」、そして 2022 年 10 月に出したプレスリリース「(研究成果) 野外の生物集団の遺伝子頻度を効率よく推定する統計モデルを開発」に対して、自分の以前からの知り合い以外への、二次的な拡散が全くと言っていいほど生じなかった点である。まあ前者は限定公開だったので仕方ない。しかし後者のプレスリリースについては一応、機構の Twitter アカウントでも一度紹介されていたのだが、リツイート等が不発であり、潜在的な技術の利用者に届いているとは言い難い。
これまで SNS をやってこなかった最大の理由は、自分がフルコントロールできる媒体上で情報発信を行いたいからである。レンタルサーバーと独自ドメインを用いて設置する html ページは、この目的に最も合致した技術であることに変わりはない。しかしウェブサイト単独による情報の拡散力が毀損された現在、「バズ」を発生させるための追加の手段を保有せねばならないことは、火を見るよりも明らかである。
なぜ Bluesky だったのか?
実は 2014 年の 5 月ごろから、SNS への進出は計画していた。ただし当時は優先順位として、特定のプラットフォーマーに依存しないことを重視していたため、P2P 形式のマイクロブログを導入しようと思っていた。候補に上がっていたのが Twister や Scuttlebutt である。またサーバを持ってはいるが、コンセプトとして脱中央集権化を図っている Mastodon や Nostr も検討した。Nostr に関しては、プロトコルの日本語版を世界で初めて翻訳・公開したほどである。ただ結果として、これらのプラットフォームには進出していない。理由を以下に述べる。
純粋 P2P 型 SNS の弱点
まず純粋 P2P 型の SNS(マイクロブログ・ミニブログ)において、結局まともにローンチできたものがなかった。「まともにローンチする」の定義を個人的に述べると、プロトコルを策定しただけでは足りない。個人ユーザーがコマンド操作なしに登録し、全ての機能にアクセスできるような GUI が、ネイティブアプリやブラウザ拡張機能として提供される必要がある。もちろん日本語対応も十分でなければ、我々が情報拡散用に導入する意味がない。とはいえ、仮にローンチまで行っていたとしても、純粋 P2P 型 SNS という類型は成功し得なかったのではないかと、今では思っている。
初期の P2P 型 SNS とほぼ同時期に着想されたのが、サトシ・ナカモトの 2008 年 10 月の Bitcoin 論文に端を発する、ブロックチェーン技術である。ちなみに筆者自身は、まだ京都で学生をやっていた 2011 年か 2012 年にはナカモト論文を読んだ記憶がある。当時 Bitcoin を買っていれば今頃は億万長者だったろうが、残念ながらそうはならなかった。それはさておき、ブロックチェーンを用いた仮想通貨が爆発的に普及した一方で、少なからず技術基盤を共有する純粋 P2P 型 SNS がなぜ死産に終わったのか。
違いはもちろん、金が動くか否かである(騎士として恥ずかしくないのか!)。
SNS が必然的に有する特性として、単一のプロトコル上に多数のユーザーが集まらないと、情報収集や広報のタスクを十分に果たせないことはよく知られている(誰も書かないし読まない場だと意味がない)。そして P2P ネットワークの維持には、コストがかかる。サーバーを持たない代わりに、ユーザー全員がディスク容量や電気代やプロバイダ料金を分担している。特に分散型の SNS を維持する場合、ストレージのコストは、ユーザーのアカウント名および到達方法(アドレス)を記したリストの保持と、ユーザーが投稿したコンテンツの格納に大別される。だが同様に、ブロックチェーンを用いた仮想通貨にも、ブロックチェーンを新規採掘したり、台帳を保持したりするコストは存在し、基本的には台帳が長くなるにつれて O(n) のオーダーで増加するはずである。結局のところ、仮想通貨においては自分の金銭的利益が可視化されているからこそ人々はコストを負担するのだと思う。
Nostr 開発者が書いているように、検閲耐性を高めようとして通信経路やコンテンツのキャッシュ場所を冗長化すると、あらゆるデータ量がユーザーアカウント数に伴って増大する。ユーザー数を n として、あくまで最悪のケースであるが O(n^2) のオーダーで、転送量は増大する。かくして各ユーザー、ないしサーバーインスタンスの設置者は、データ保持/転送の負担に耐えられなくなる。おそらく全盛期の Twitter 並みのアクティブユーザー数で、かつ画像や動画などのリッチコンテンツを投稿するようなソーシャルネットワークは、P2P では到底維持できないだろう。
なお個人的に、純粋 P2P 型 SNS に乗り切れなかった別の大きな理由としては、検索の弱さがある。トピックやユーザー名をネットワーク全体から探したり、投稿日時や属性で絞り込みをかけたりする操作は、今なお分散型 SNS では克服されていない苦手分野だ。すべてのコンテンツをインデックスしている中央サーバーが存在しない(もし在ったとしてもそれを無条件に信頼しない)ように設計されている以上、仕方ない。可能性があるとしたら WWW 全体と Google の関係のように、分散型 SNS をクロールしてインデックスを作成する外部サービスを構築することだろう。これがビジネスモデルとして成り立つかどうかは不明であるが。
蛇足。ビットコインの価値は、ブロックチェーン採掘に要する計算資源によって「保護」されているが、それは価値の「保証」とイコールではない。それを保証しているのは、当該のブロックチェーンに通貨としての価値を認めるという信念であり、その表出として人々がブロックチェーンの採掘を行っており、現にビットコインで買い物ができるマーケットがあるという事実によってである。
フェディバースや類似技術の弱点
次に Mastodon や Misskey などの、いわゆる Fediverse の枠組みについてである。Nostr についても、厳密にはフェディバースの一部ではないがここで触れておく。まず日本で最初に(2017 年)、この手の技術として大規模に話題となった(Twitter からの移住先候補として、非技術者向けのネットメディアで取り上げられた)のが Mastodon である。結局の所アーリーアダプター層だけが乗ってきて、Twitter の一般ユーザーの大多数が移住するには至らなかった。
もちろん Mastodon への進出も 2017 年初頭の時点で検討していたが、やはり全文検索ができないという点で魅力を感じなかった。正確には 2023 年の Mastodon 4.2 で記事の内容を検索する機能が追加されたらしいが、それまでは原則としてハッシュタグの検索しか提供されておらず、遅きに失した感はある。なお Mastodon 4.2 の全文検索にしてもサーバーが 4.2 にバージョンアップし、かつユーザーが Indexable を設定オンにした場合のみ検索対象になるとのことで、自分が求めているものはコレジャナイと言っておく。
結局、なぜ Bluesky だったのか
上で書いてきたとおり、SNS 進出先の候補はいくつかあったが、こちらが求めているレベルで情報の収集と発信を行いうるサービスは生まれていなかった。減点方式で評価していった結果、アカウント開設・管理の手間に見合うだけのメリットが得られそうな初めての SNS が Bluesky だったのである。ポストの全文検索機能については、非ログイン状態での検索がまともに提供されていた時代の Twitter (X) に比べると遅いものの、とりあえず実用レベルに達している。また Fediverse とは直接の互換性はないが、ブリッジ機能を用いてアカウントのフォローが可能である。
また 2024 年後半には AI 学習許可関連の騒動に由来して、Mastodon 勃興時に次ぐ規模で、X からの大規模なユーザー流出が起こった。このタイミングで学術研究や報道といった業界がある程度 Bluesky に流入し、最低限の情報収集環境が整ったことが大きい。一方、アート関連のアカウントは主に Misskey へ移住しており、Bluesky には少ないように見える。別に Misskey にもアカウントを作って与謝野晶子を暴れさせてもいいのだけれど、その時はまた考えよう。
Bluesky アカウントの運用方針
というわけで作った Bluesky の個人アカウントを、どのように運営していくかである。情報の収集に関しては、これからおいおいフォローするアカウントを増やしていくことで当初の目的を難なく達成できると考えている。問題は情報発信の強化、つまり冒頭で動機として述べたとおり、元からある sudori.info の記事や自分の研究成果の発表を、どうやって「バズらせる」かである。これには身も蓋もない言い方をすると、フォロワーを増やすしか無い。
なので当面の動きとしては、既に須通りサイト上や、ネット内外の各所に執筆済みである成果物の紹介ポストを適宜投げつつ、生態学・農学・情報科学分野を中心に研究者やインフルエンサーのアカウントを見つけてフォローしていくことになるだろう。もしこの記事をご覧の方で、なんか訳のわからん Mitecat(Fig. 1)に見張られている方がいたら、慈悲という名の相互フォローを掛けてやって下さると幸いである。
Fig. 1 | Mitecat(はだにゃ)の想像図。